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かどまの民話「妙法寺の巻物」

お寺と上人さんのイラスト

昔、横地村(よこちむら)に妙法寺というお寺があった。寺と言ってもそれは小さなわらぶきのもので、妙専という高徳な上人と弟子の善徳さんの二人で住んでおった。
妙専上人さんは毎日欠かさず朝夕の勤行(ごんぎょう)をお勤めになった。
また、人間が楽しく幸せに暮らしていくためにはどうしたらよいかということや、親子、嫁と姑の難しい関係についておもしろおかしく語るので、「上人さんのお話は楽しく聞けてとてもためになる。」
と評判で村中の人々が集まってきた。
また忙しい中にも合間を見ては困っている人のためにと弟子と二人で裏の畑で作物を作ってあげたりしていた。

村人はこの妙専さんに常日頃から
「節約をしなさい」
「無益な殺生をするな。」
と強く教えられていたので、魚取りや虫取りをせず、牛や馬を鞭打ったりもしなかった。
ある日、蚊が妙専さんの手足に止まったが、追い払おうともせず蚊が満腹のおなかをして飛び立つまでじっとしておるあり様やった。

またある日、子供たちが水遊びをしているところへ通りかかった。
「ワーイ取れたぞ!」
「ワッ!エビがかかっとるわ」
と子供たちはワイワイ騒いでおった。仕掛けられた網には沢山の小魚や小エビがかかりもがいていた。
それを見て心を痛めた妙専さんは、網から一匹ずつ元の川に放してやり、
「二度と網にかからないよう遠くへいきなさい。」
と言って逃がしてやった。

帰り道の西の空を見ると真っ赤に染まった夕焼け雲に月が映えて美しかった。
妙法寺の朝は決まって食事の時間になると庭に沢山の雀が集まってきてチュンチュンと餌を催促するのだった。こんなときが妙専さんの一番心の休まる楽しい一時であった。
そんな妙専さんも六十歳を迎えられたころには寺の事務は弟子に引き継がせ自分は寺の本堂に子供を集め読み書きを教えておられた。

ところが長年の無理がたたり病気で倒れてしまった。心配した村人たちは、夜になるとあちこちから畦道を通ってやってきた。そしていろいろと薬になるものを差し出したが、上人さんはどれも口にしようとしない。村人たちはがっかりして、困り果て何か良いものはないかと思案にくれていた。
ちょうどその時、村の若者が
「活きのいい鯉が取れた。」
と言って八匹の大きな鯉を持ち帰ってきた。これはよいものが手に入ったと喜んで鯉を籠の中にいれ上人さんに食べさせようと持っていった。
ところが上人さんは
「仏門に仕える者は生き物を殺すことはできません。誰かこの鯉を元の川へ戻してやりなされ。」
と悲壮な声でおっしゃった。村人は
「これは大変なことをした。」
と過ちに気付き籠を外に持ち出そうしたが上人さんは静かな声で、
「もう籠の中の生き物は元の川に帰っています。」
と言われた。村人たちは驚き、恐る恐る籠を開けてみると不思議なことに籠の中は鯉ではなく法華経の巻物八巻にいつの間にか変っていた。

この巻物を御宝前に備え付け、毎日怠りなくお祈りを続けることにした。すると上人さんは日に日に病気が回復してすっかり元の元気な姿になられたそうな。

妙専さんはその後京都へ移られ、今では昔物語となっています。

出典

門真市PTA協議会 母親代表委員会(平成14年度)『かどまの民話』

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