かどまの民話「歌塚(野口の里)」

更新日:2019年10月31日

野口の里のイラスト

昔、野口の里はな、蓮地や葦(あし)の生い茂る沼がぎょうさんあって、水辺にはいろんな鳥が遊んでいた。
春は菜の花やれんげの花が咲き乱れ、空には、ひばりがさえずっておった。
蛍の時期になると、夜の水辺は青い光があっちこっちで光り、子供らは歌を歌いながら笹を持っておいかけたもんや。夏になったら神社の森ではセミが鳴き、秋は鎮守(ちんじゅ)の祭りが盛んじゃった。冬には子供の雪合戦。それは豊かな自然があふれておった。その頃は都からえらーい人達がやって来て、船にのってかきつばたや蓮の花の見物をしたり、弓矢を肩に担いで馬にのったり、たか狩りをしたりしておった。また歌枕にも出てくるほどの有名な水郷地帯であった。

この野口の里に村人達も羨むほど仲の良い夫婦が住んでいた。
ある年の夏のこと、大雨が降って大洪水が起こった。突然の災難にあった若夫婦は無我夢中で逃げ、命だけは助かったものの、それからのこの若夫婦の生活は苦しく、このままでは二人とも死んでしまうかも知れへんと思うほどであった。
夫はついに涙声で
「なぁいつまでもこのままでは、わしもおまえもダメになってしまうで。」
と別れ話を持ち出した。それを聞いた若妻は泣き伏せてしまった。夫は出て行き、残された若妻は村人の世話で野口の里のお金持ちのお手伝いさんとして働くようになったが、都から来たえらーい人がお嫁さんに欲しいと連れて行き、何不自由なくくらすようになった。
そして翌年の春のこと。若妻を連れて野口の里へたか狩りへ来た時やった。
船で水郷を一周していると、以前すんでいたところに同じような草葺きの小屋が立っていた。若妻は、もしかしたらあの人がいるかも知れへんと、夫との幸せな日々を思い出し歌を書いた。その時スーッと舟が近づいてき、その中には懐かしい前の夫の姿があった。若妻は嬉しさの余り声も出せず、ソーッと歌文を手渡した。前の夫は
「わしが悪かった。何も言わんでくれ。」
と小さな声でつぶやいて返事の歌文を渡した。若妻をのせた舟は静かに都へと向かっていき、前の夫はいつまでもいつまでも舟を見送った。妻が幸福であることを知った夫は、切ない思いを断ち切るようにじっと見送った。

後に、二人の歌を野口の里の豪邸の庭に歌塚として残したそうな。

出典

門真市PTA協議会母親代表委員会(平成14年度)『かどまの民話』

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